電図開設2

心電図の基礎を学ぶ

波形が語る心臓のメッセージ

心電図とは何か?

心電図(ECG)は、心臓が拍動する際に発生する微弱な電気的活動を記録する、医療現場で不可欠な検査です。この検査により、心臓の健康状態を非侵襲的に、かつ迅速に評価することができ、不整脈、心筋梗塞、心肥大など、様々な心臓の異常を発見する手がかりとなります。

心電図の基本:何が記録されているのか?

心電図の記録紙は、時間が横軸、電位(電気の強さ)が縦軸になっています。標準的な設定では、1mmのマス目が横軸で0.04秒、縦軸で0.1mVを表します。この記録紙に描かれる波形は、心筋が興奮(収縮)し、回復(弛緩)するまでの一連の電気的プロセスを視覚化したものです。

心臓の電気刺激は、「洞結節」というペースメーカーから始まり、心房全体に伝わった後、「房室結節」を介して心室へと伝わります。この一連の流れが、心電図の基本的な波形を形成します。

波形と間隔の役割

波形 心臓の状態 意味
P波 心房の興奮 洞結節から発生した電気信号が心房全体に広がる様子。リズムの起点が正常であることを示す。
QRS波 心室の興奮 電気信号が心室全体に広がり収縮する様子。心臓のポンプ機能の主役であり、最も大きな波形となる。
T波 心室の回復 心室が興奮から回復し、次の拍動に備える過程。緩やかな山なりの波形が特徴。

主要な間隔

  • PQ(PR)間隔:P波の始点からQRS波の始点まで。心房から心室への伝導時間。
  • ST部分:QRS波の終点からT波の始点まで。心室全体の興奮が続いている時間。
  • QT間隔:QRS波の始点からT波の終点まで。心室が興奮を開始してから完全に回復するまでの時間。

12誘導心電図:多角的に心臓を診る

通常用いられる「標準12誘導心電図」は、両手足と胸部に電極を装着し、12の異なる角度から心臓の電気活動を捉えます。これにより、心臓のどの部分に異常があるのかを立体的に評価することが可能になります。

四肢誘導

心臓を上下左右の平面(前額面)から観察する。

胸部誘導

心臓を水平な断面(水平面)から、より近距離で観察する。

心電図からわかる主な異常

1. 不整脈

心臓のリズムの乱れ。脈が速くなる「頻脈」、遅くなる「徐脈」、不規則になるものなどがある。

心房細動:

P波が消失し、QRS波の間隔がバラバラになる。脳梗塞のリスクを高める。

房室ブロック:

心房から心室への電気伝導が遅延・途絶する。PQ間隔の延長などが見られる。

2. 虚血性心疾患

冠動脈の血流が悪化し、心筋が酸素不足に陥る病気。

心筋梗塞:

冠動脈が完全に閉塞。ST部分の著しい上昇(ST上昇)が特徴で、緊急治療が必要。

狭心症:

冠動脈が狭窄。運動時などにST部分の低下(ST低下)が見られることがある。

3. 心肥大・心負荷

高血圧などが原因で心筋の壁が厚くなった状態。QRS波の電位が高くなる(波の振れ幅が大きくなる)などの変化が見られる。

まとめ

心電図は、その簡便さにもかかわらず、心臓の状態に関する豊富な情報を提供してくれる強力なツールです。波形の一つ一つが持つ意味を理解することで、心臓からの重要なメッセージを読み解くことができるのです。